退職金の準備
退職金規程のある企業や、明文規定は無くても従業員福利厚生の一環として、退職金の支給を約束している場合には、退職金の準備をしなければなりません。
ところが、法人税法では「退職金引当金」は債務未確定の費用として取り扱われるので経費になりません。
しかし、中小企業には現金預金は社外に流出してしまいますが、積み立てる方法があります。
それが、そこで、中小企業で一般的に利用されているのが「中小企業退職金共済(中退共)」です。
これは、一定規模以下の中小企業のための従業員のための退職金積み立ての基金で、政府系機関である「独立行政法人 勤労者退職金共済機構」が運営しています。
掛金は毎月5,000円から30,000円まで、社員後に金額設定が可能で、全額事業主負担で全額経費となります。
退職金は従業員が退職した場合に、同機構に直接請求して直接受取ることになります(会社は受取れません)。ただし、加入後1年未満で退職した場合には、退職金が支給されません。
同制度は「懲戒解雇」の場合には退職金を減額することができますが、それ以外の事由では減額することができません。
この制度の従業員側から見れば、一定額の退職金が確実に保証されるので、とても安心なのですが、経営者側の視点からすると、「余りに裁量の余地が無い」というデメリットがあります。
また、死亡退職金も自己都合による退職も支給額が変わらないため、業務中の事故による死亡の場合、退職金の支給額が不足するというリスクがあります。
近年は、業務中の事故死に対する企業の責任が重くなっており、遺族から億を超える非常に高額な賠償金を請求されるという例もあります。業務中の事故死のは、「労災」の対象となりますが、金額的に「労災」では不足するということを前提に考えたほうが無難です。
過去の労働災害
| 死亡(人) | 死傷(人) | |
| H15 | 1,628 | 132,936 |
| H14 | 1,658 | 132,339 |
| H13 | 1,790 | 140,149 |
また、業務上の死亡でなくとも、就業期間中に「死亡退職」となった場合には、通常、一般の退職金以外に弔慰金などを支給するのが一般的ですので、会社としてはこれに備える必要もあります。
18歳から65歳までの死亡率は男性で16.0%、女性で7.5%となっております。つまり、男性の6.25人に1人が退職までの間に何らかの形で亡くなるということになります。
そこで民間の保険を活用するということになりますが、最も費用対効果が高いものが「団体定期保険」という種類の保険です。団体扱いを受けることによって、個人保険と比べて保険料が安く、また、健康で正常に勤務している従業員であれば、告知のみで申し込みをすることができるというメリットがあります。
さらに、退職の際に会社側の裁量の余地を残しておくという意味で、民間の生命保険を利用する場合について考えてみたいと思います。
民間の生命保険で、死亡により保険金を受取るもののタイプは一般的に3つの型に分けられます。
1つは、一定年齢まで一定金額を受取れる「箱型定期保険」(箱型定期保険とは俗称で、単純に「定期保険」というとこれを差します)。
次に、箱型定期保険の保険期間を更に延ばした「長期平準定期保険」(その保険期間満了時の被保険者の年齢が70歳を越え、かつ、加入した時の契約年齢に保険期間の2倍を加えた数が105を越えるもの)。
最後に、保険金額(死亡時の保障)が徐々に増えていく「逓増定期保険」。
いずれの場合も、保険の契約関係は下の図のように設定します。
| 契約者・保険料負担者・保険金受取人 | 被保険者 |
| 会社 | 役員または社員 |
それぞれの保険の保険金と解約時の返戻金をグラフにすると下図のようになります。
(クリックで拡大)![]()
それぞれの保険のメリット・デメリットをまとめると表のようになります。
| メリット | デメリット | 保険料の取り扱い | |
| 箱型定期保険 | 解約返戻金は小さいが保険料が安い | 保険更新時に保険料が大幅に高くなることがある | 支払時に全額損金 |
| 長期平準定期保険 | 死亡保険金が常に一定額となるため、入社後すぐに死亡保険金を受取った場合、全額を退職金として支給することができない | 被保険者の年齢と満期との関係により、支払時に1/2または1/4を損金算入 | |
| 逓増定期保険 | 死亡保険金が徐々に増えていくので、死亡退職金の原資として適切 | 被保険者の年齢と満期との関係により、支払時に1/2または1/4を損金算入となるものと、全額損金算入のものがある |
一般的に退職金の準備という目的のためには、長期平準定期保険と逓増定期保険が使われることになります。
保険会社によって、長期平準定期保険と逓増定期保険の得手・不得手があるので、得意な方をお客様にすすめるということになっているようです。
長期平準定期保険も逓増定期保険も、「解約返戻金」が高額になるという点では同じですが、上記の表の通り、死亡保険金の支給の型が全く違います。
したがって、「どうせ解約返戻金目的ではいるのだから」という気持ちで長期平準保険に入ってしまうと、従業員が死亡した場合に多額の保険金を受取ることになってしまいます。
「多くもらえるんだからいいじゃない」と思うかもしれませんが、その分保険料が割高になっているので、もしものことが無いという前提であれば無駄な保険料を支払っていることになります。
したがって、死亡保険金まで考えた場合には、退職金の積み立てを目的にする場合には、逓増定期保険のほうが適切であるということができます。
ただし、逓増定期保険は主に「節税」を目的に設計された商品が多いのが現状です。このような保険は、100歳超で1億円をこえる保険金を設定して、解約返礼率を高く設定しているため、退職金の積み立て目的としては不適切です。
保険金の逓増の仕方や保険の満期を自由に設定できる保険会社がほとんどだと思いますので、よく話し合って、退職金として適切な保険の設計することが重要です。
最後にまとめると、「退職金のベースは中退共で準備し、死亡保障には団体定期保険でカバーし、さらに余裕がある場合には逓増定期保険」という順序で準備するのがベターではないかと私は思っています。
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